MORITA INDUSTRIES INC | モリタ工業株式会社

業界初、幅110mmの開発

モリタ工業の歴史(4)

お風呂の普及、乱立と淘汰

雇用促進住宅も労働環境安定化に大きな役目を果たしましたが、日本の近代住宅史を語るうえで外すことができないのは、やはり日本住宅公団(現 独立行政法人都市再生機構、以下「公団」)の存在です。太平洋戦争直後の混乱期、個人風呂は贅沢品であり庶民は銭湯が主流であった日本人の入浴スタイル※を、公団は一新してしまいました。

お風呂とお湯をめぐる話(キッチン・バス工業会、62ページ、2020年6月12日閲覧)

関東のUR団地(2020年、当社撮影)

私たちはいま普通に家庭でお風呂に入るようになっていますが、東アジアの一部で入浴の習慣があるものの、全ての家庭に浴槽があり毎日のように湯に浸かる習慣がある地域は、日本だけです。その習慣の源泉は、1950年代の公団による団地建設にあります。

昭和30年(1955年)から昭和55年(1980年)までの間に、公団は鉄筋コンクリート造集合住宅を50万戸以上建設※1しましたが、その全ての住戸に浴室を導入したのです。この影響は民間建築市場に広く及び、その後に着工されたほぼ全ての新築住宅で、お風呂が導入されました。「公団住宅の最大の特色は、風呂の設置であった」※2と言われるゆえんです。

※1 UR都市機構「平成16年度決算 参考資料」をもとに算出

※2 ’ING REPORT 機 第4版(平成23年3月、独立行政法人都市再生機構)22ページ

こうした市場動向を背景に、家電メーカーや住設機器メーカーといった大企業をはじめとして、全国の企業が一斉に風呂釡製造事業に参入。昭和45年(1970年)頃には100社以上※1が乱立しましたが、現在までにそのほとんどが撤退・廃業しています。製品不良が一酸化炭素中毒など人命に影響を及ぼす可能性のある家庭用ガス機器の製造は、結果としては特定メーカーによる専門的なビジネスになったのです。

現在、家庭用ガスふろ給湯器メーカーは国内に10社※2。ノーリツ、リンナイ、パロマ、パーパス、長府製作所、ガスター、ハウステック、世田谷製作所、タイヘイ、モリタ工業(順不同)です。当社は淘汰を乗り越え、安全性を追求しながらも家庭用ガス機器の製造を続けてきた、その10社のひとつです。

※1 給湯器ものがたり(キッチン・バス工業会、75ページ、2020年6月12日閲覧)

※2 2020年6月現在(ガス石油機器工業会資料などを元にした当社調査による)

超薄型、幅110mm風呂釜の開発

業界の厳しい競争を生き延びて当社が今日まで事業を継続できた理由は、角釡に続いて幅110mmの超薄型風呂釡(薄型シリーズ)を開発したことに端を発しています。その開発は、角釡発売から3年経過した昭和48年(1973年)、お客様企業のご依頼によるものでした。

建設当初の団地の浴室には、木製浴槽と追焚内釜式(おいだきうちがましき)のCF式風呂釜が用いられていました。このタイプの団地は昭和30年(1955年)から昭和43年(1968年)まで建設※されます。日本家屋風の趣のある浴室でしたが、木製浴槽は大量供給に向かず、また腐食に弱かったため、昭和41年(1966年)後半から鋼板ホーロー浴槽と幅150㎜のCF式風呂釜への取替工事が進んでいきました。ホーロー浴槽とは、現在では高級ホテルなどでしか使われなくなくなりましたが、鉄の素地にガラス質の粉を焼き付けた、耐久性が非常に高いバスタブです。

※当社内部資料による

木製浴槽と追焚内釜式CF風呂釜(1980年代、当社撮影)

ところが施工が進むにつれ、浴槽の隣にあるガス風呂釡が邪魔となって浴槽が通常に設置できない住戸がでてきました。現場ではやむを得ず、浴槽を長手に(つまり縦横を入れ替えて)置いたり、上部のフランジをカッターで切断するといった施工がなされたのです。切断といっても素地は鉄ですから、容易なことではありません。お客様企業のご依頼は、浴槽がピッタリ収まるように幅が110mm以下の薄い風呂釡を開発してくれ、というものでした。

「メーカー数社に打診したが全て断られた」とお客様はおっしゃりました。それはそうでしょう。当時、浴室に置く風呂釡はオーバーヒートを防止するため幅150mmが絶対的に必要と考えられていました。つまり、「ガスバーナーが外装部を加熱し使用者が火傷をしてしまう危険があるため、機械内部に安全上の離隔距離を確保すると、外形幅は最低でも150mm」というのが、業界の常識だったのです。

当時のパンフレット

当社はこの常識を疑います。「オーバーヒートが危険ならば、オーバーヒートしないようにすればよい」。試行錯誤を繰り返し、バーナーを熱交換器で包み込む構造を考案。問題となったのはバーナーの小型化で、大手各社に足を運ぶもにべもなく断られ、辿り着いたのが今では熱交換器の名門として業界に名高いアタゴ製作所。起業したばかりのアタゴ製作所の創業者は「面白い、やってみましょう」との一言で快諾し、見事小型バーナーの開発に成功。製品化が大きく進展したといいます。

薄型シリーズは平成2年(1990年)に生産中止となるまで約53,000台が出荷されました。この幅寸法は後継機種のFF型給湯付ふろがま「KDM-FF」に継承されたほか、業界においてもデファクトスタンダードとなりました。今日でさえ、浴室内に設置するスリムタイプのガス風呂釡といえば各社とも幅寸法は110mm。業界の標準サイズであり続けています。